Articles コラム イベント・エンターテインメント 過去にも未来にも、名画やアニメの世界にも行けるーー「観光DX」は時空と次元を超える深みがある

観光DXは既存の観光の概念を「激変」させる試み

さまざまな分野で進められているDX(デジタルトランスフォーメーション)ですが、観光分野も例外ではありません。近年は、観光資源をデジタル化し、ARやVRなどで楽しめるサービスを提供するケースが増えています。

そうした観光DXの先頭に立って、面白い取り組みをしている企業が株式会社キャドセンター。今回は観光DX担当の岡本小夏さん、鎌田真偉子さん、綱木俊博さんに、観光DXの具体例と観光の未来について伺いました。

左から株式会社キャドセンター 岡本小夏、鎌田真偉子、綱木俊博

AR・VRで時空を超えた旅を創造

キャドセンターが手掛ける観光DXの代表例が、バーチャル空間で観光地を体感することができるアプリ「旅するトビラ」。ARとVRをミックスし、まるで瞬間移動のようにいつでもどこでも観光地へ旅することが可能です。沖縄、スキー場、東京上空、江戸時代の城……。時間・季節・過去・未来を問わず、今この場所から今ではないどこかへ。デバイスをトビラにし、旅へ出かけられるのです。

↑「旅するトビラ」のイメージ。専用アプリの入った端末を起動してカメラをかざすことで画面上に別の空間の映像を映し出す

「タブレットのジャイロセンサーと連動して、360度動画をいかにもその世界に入ったかのように見せるコンテンツです。私たちは観光の過程を『旅前』『旅中』『旅後』に分類して考えているのですが、このすべてで利用していただけます。

準備段階の『旅前』では、候補地を仮想体験しながらどこに行こうか情報を得られる。『旅中』では観光地で利用し、かつてあったお城など時空を超えてその目で見ることができる。そして『旅後』では自分が行った場所をあとで見返し、体験を画像としてシェアできる。観光のあらゆるシチュエーションで、体験の密度を上げてくれます」(岡本さん)

この技術を応用したコンテンツとしては、ソフトバンクのオープンラボ「5G X(クロス) LAB OSAKA」の常設コンテンツで、スキー場などに行ける「5G GATE」や、消失した首里城を3DCGで再現した「首里城VRゴー」などがあります。

↑「5G X(クロス) LAB OSAKA」に常設展示のコンテンツ「5G GATE」の様子

もはや世の中に存在しない、歴史上の空間のなかであっても、疑似体験ができるのです。現実には存在しない、アニメや絵画のなかへだって入り込める。こうした“魔法”は、どのようなソリューションで具現化するのでしょうか。

「『旅するトビラ』の基本は360度動画で、それをARで表示することで世界に入り込んだ感覚をプラスしています。たとえば、2019年に焼失してしまった首里城を、3DCGで現地の同じ位置に再現した『首里城VRゴー』(2020年9月~11月公開)では、タブレットの画面越しに首里城を重ね合わせて見ることができ、現地ならではの臨場感のある体験ができます。またヘッドマウントディスプレイを使えば、そこに首里城があるかのように自由に歩き回れる。ニュースでも取り上げていただけて、多くの方にインパクトを与えられたかと思います」(綱木さん)

↑2020年9月から11月まで公開された、NTTコミュニケーションズ株式会社が実施した「首里城VRゴー」

「位置と実装サイズを正確に再現することで、現地に行くと本当にそこに城が建っている感覚になる」と開発陣も納得の出来。自社でフォトリアルな3DCGを制作しているキャドセンターだからこそ可能な技術でしょう。「旅するトビラ」というサービスをベースに、企業や自治体、各観光地に合わせたカスタマイズを行って、それぞれが持っている“人を引き付ける魅力”をさらに増幅させるスキームとなっています。

エンタメとリアルを両立したコンテンツ型観光DX

「旅するトビラ」が視覚をメインにしていたのに対し、全身で体感できるコンテンツがキャドセンターと株式会社ロジリシティとの協業による「バンジーVR」です。その名の通り、「バンジージャンプ」をVR体験できるというもので、東京タワーやあべのハルカスの展望台で開催され、ビジネスとしても成功を収めています。身体を反転させる装置とVRゴーグルに映し出されたリアルな都市のCGで、安全で手軽に大都市の真ん中でバンジー体験ができます。

↑ハルカスバンジーVRの様子

「『ハルカスバンジーVR』は今年7月20日にオープンして、弊社のサイトへのアクセスも2か月間非常に高い状況でした。常に人が並んでいて、多いときは1日約200人の方に体験していただけたそうです。9月末までの開催予定でしたが、大変好評のため、12月11日まで期間延長が決定しました。同じく東京タワーでの『バンジーVR』も人気のアトラクションとなっています」(綱木さん)

「あべのハルカスも東京タワーも展望台自体に入場料があり、さらに『バンジーVR』の料金も払っていただけている。これは『体験してみたい』と強く感じていただけたことのあらわれだと思います」(岡本さん)

「バンジーVR」で特筆すべきは、これが現実だと誰もが錯覚するほどの真に迫った光景。このリアリティの構築にはキャドセンターならではの蓄積があります。

「キャドセンターでは、そもそもリアルな3D都市モデルを作っています。航空測量で取得されたデータをもとにしているので、非常に精度の高いデータを保有しているんですね。それに加え、主要な建物に関しては実際に現地取材してテクスチャを作成しています。足元の飛び込む先の風景に関しても現地取材していますので、そこにリアルを感じていただけていると思います」(綱木さん)

↑前々回の記事でも紹介した「街バース」のイメージ画像

関連コラム:メタバースをリードできるかは「測量データ」と「アイレベル」にある! 3D都市データサービス「街バース」で本格化するリアルなバーチャル

キャドセンターが磨いてきた3D都市データの高い技術と実績を土台に、現地取材による丁寧な作り込みを積み重ねて成功した「バンジーVR」。国土地理院の地図データに自前のデータを合わせることで「バンジーVR」は全国展開も容易だそうです。

観光DXが観光にもたらす未来とは?

「旅するトビラ」と「バンジーVR」、どちらにも共通するのはエンタメとリアルの高い融合。今後はさらにこうしたコンテンツ型観光DXのサービスを進めていきたいとキャドセンター。

「今年、愛媛県西予市にある『四国西予ジオミュージアム』で、来場時にスマホで楽しめる体験型コンテンツ『ジオクエスト』を作成しました。クイズを解きながら施設内を周っていくことで、展示内容への関心を高め、楽しんでいただくとともに学習効果の向上なども期待しています。そのため、自宅に帰ってからも振り返りができる機能も実装しました。また体験後は、西予市のお店のクーポンが発行される仕組みもついています。コンテンツを現地で体験して終わりではなく、来場後に地域を周遊するための仕組みをIT活用で実現しました」(鎌田さん)

単純に観光客のためのコンテンツというだけでなく、その先の広がりを見据えていると鎌田さんは言います。

「作る時にスタッフが意識したことは地域とつながること。観光客の方はもちろんですが、デジタル機器に不慣れな方にもずっと使っていただいて、観光に来た方と接点ができるきっかけになればと考えました。そのため市役所の方やボランティアの専門家の方にも協力していただき、使いやすい、操作しやすいアプリを目指しました」(鎌田さん)

現地で実際にアプリを使って体験してもらい、そこからスムーズに情報を発信して、観光客と地域を結びつける。

「観光客の方が1回来て終わりではなく、何回来てもお得になるような仕組みが作れてよかったなと思います」(鎌田さん)

メジャーな観光地だけをピックアップして周っていく従来型の観光スタイルをも変える可能性を持ったコンテンツ型観光DX。点から面へ。時の経過や資金・人手不足などで埋もれてしまった観光資源をARやVRによって掘り起こし、地域として光を当てる。目新しさを超えて、地域全体で持続可能な取り組みこそが、これからの観光DXのカギを握るのではないでしょうか。

取材/GetNavi web編集部 まとめ/卯月 鮎 撮影(人物)/鈴木謙介

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