戦国武将たちが激しい攻防を繰り広げた、歴史に名を残す城郭、掛川三城。東海の名城「掛川城」、難攻不落の「高天神城」、玉石積みの石垣が美しい「横須賀城」の三城を持つ静岡県掛川市は、観光資源としての価値を高めるため、高天神城にスポットを当て、往時の姿をARで蘇らせる施策を打ち出します。そこで手を挙げたのが、キャドセンターと、グループ会社のアプライズです(以下、アプライズ・キャドセンター)。アプライズ・キャドセンターとタッグを組んだ経緯や、制作したWEBサイトとAR/VRアプリの特徴、今後の展望などを、掛川市役所 文化・スポーツ振興課 文化財係の山本邦一さんと、同係学芸員の柴田慎平さんにお話をうかがいました。
高天神城の活用を目指す掛川市と、3Dビジュアライゼーションで高い技術を持つキャドセンター
――高天神城の魅力を発信していくうえで、どのような点に課題を感じていたのでしょうか?
山本さん: 高天神城にはさまざまな魅力があります。-まず、建物は残っていないものの、土塁や堀がそのまま残されている点は大きな魅力です。「高天神を制す者は遠江を制す」とうたわれ、武田信玄・勝頼と徳川家康が長きにわたり奪い合った歴史的なストーリーも人々を惹きつけるポイントで、NHKの大河ドラマ『どうする家康』でも話題を呼びました。しかし、廃城から450年近く時が経ち、風化が進み、往時の姿を掴みづらくなってしまっていたのも事実で、今は案内看板や標柱、神社があるだけの「山」に、どうやって足を運んでもらうのか、課題がありました。難攻不落と言われた名城がかつてそこにあり、武田と徳川が命を賭して戦った舞台であることが、一般の方にはイメージしづらくなっていたんです。
柴田さん: これまでは、看板を整備したり、私のような学芸員やボランティアガイドが同行し、往時の姿や歴史を口頭で説明するしかありませんでした。ただ、言うまでもなく、常にガイドが常駐しているわけではありません。高天神城の魅力をわかりやすく発信し、実際に足を運んでもらうとともに、地元住民の方々に誇りを持ってもらえるよう、何かよい方法はないものかと、考えていました。
――プロポーザルでのアプライズ・キャドセンターの印象はいかがでしたか?
山本さん: とても印象に残る企画書だったのを覚えています。「そうそう、こういうことがやりたかったんだ、高天神城はそこがかっこいいんだ」と、率直に思いました。企画書の段階でかなり作り込んでくれているなと。こうしたプロポーザルの場合、制作するWEBサイトやアプリは魅力的でも、それらをどう発信していくのか、という視点に欠けている場合も多いのですが、アプライズ・キャドセンターは、「作った後」のことまできっちり考えてくれていました。
柴田さん: アプライズ・キャドセンターの提案は“バランス”が素晴らしかったと思います。制作が得意な会社さんもあれば、プロモーションに長けている会社さんもある。実際、プロモーションが得意な会社さんからも提案を受けましたが、肝心のコンテンツがそこまで作り込まれていなくて、「これだと城好きの方には物足りないのではないか」と。その点、アプライズ・キャドセンターの提案は、興味関心を引く「旅まえ」、関心を行動に移す「旅なか」、そして、体験を共有する「旅あと」と、来訪者のフェーズに合わせてコンテンツが構成されていて、「作ったら終わり」ではなかったんです。
Webサイトと現地で体験するAR/VRアプリで城跡歩きの楽しみが向上。打合せを重ね完成した納得のコンテンツ
――WEBサイト「今、よみがえる高天神城」では、高天神城の概要を把握できるだけでなく、キッズ向けサイトや、360度画像で多数のポイントを確認できる「バーチャル高天神城」といった魅力的な要素が多数盛り込まれていますが、WEBサイト制作に関してこだわった点はありますか?
山本さん: 「高天神城」というキーワードで検索して、WEBサイトを開いた時に、第一印象でパッと興味が持てるようなWEBサイトを作りたいと考えていて、アプライズ・キャドセンターにはその思いをしっかり汲んでいただきました。トップページの冒頭から詳しい歴史をつらつらと書き連ねるのではなく、いかに面白そうに見せるかが大切だと思っていて。もちろん、城好きの方など、興味を持ってもらった方も満足できるように、階層構造で深掘りしていける構成になっています。
柴田さん: WEBサイト「今、よみがえる高天神城」のキービジュアルやキャッチコピーに関しては、プロポーザルの時点から大きな修正はありませんでした。そのくらい、提案段階ですでに作り込まれていましたから。WEBサイトのトップページにある夕景のキービジュアルについては、「かつて戦場だった」という歴史的背景をうまく表現していただきました。
――AR/VRを用いて、往時の様子を体験できるアプリについて、苦労した点などがあれば教えてください。
山本さん: AR/VRで当時の様子を再現する中で、特にこだわったのは、どこまで歴史に忠実に作るのかという点です。史実に基づかず、空想的なものを作ってしまうと安っぽくなってしまいますが、史実に忠実に作ろうとしても、どんな建物があったのかなど、わかっていないことも多いのが実情でした。そんな中で、監修の先生や学芸員、そして、アプライズ・キャドセンターの3者で何十回も話し合いながら、細かいディテールまで妥協することなく作り込んでいきました。現地のビュースポットで往時の建物をARで表示できるだけでなく、そのほかにも、ゲーム性やイベント性のある機能を盛り込んでいただき、楽しく周遊できるアプリに仕上がったと思います。
柴田さん: AR/VRを使ってどれだけ精巧に作り込んでも、100%忠実に復元することはできません。しかし、全く存在しなかったものを作るのは無責任であり、そのバランスをどう取っていくのかという点は苦労しました。江戸時代の城であれば、天守が今も残っていたり、当時の図面が残っていたりする場合もあるのですが、高天神城の場合は図面がありませんから、アプライズ・キャドセンターは相当苦労されたと思います。そういう中でも、建物だけでなく、高天神城の特徴である急峻な地形も驚くほど高いクオリティで再現していただきました。
手厚いアフターフォローも大きな魅力のひとつ
――公開後の反響について教えてください。
山本さん: 実際に足を運んでいただいた観光客の方から「満足」の声をもらえたのはもちろん、地元の方々が喜んでくれたのもうれしかったです。自分たちが住む場所にある「山」が、実は大きな価値のあるものだったのだと再認識いただけたのではないかと。メディアにも数多く取り上げられ、近隣の自治体からの問い合わせも多くありました。
柴田さん: 大河ドラマで高天神城に注目が集まったところで、AR/VRを使ったアプリが完成し、高天神城について説明しやすくなりましたよね。学芸員やガイドが常駐したり、同行したりしなくても、AR/VRで楽しんでもらえるようになり、「高天神城の魅力に触れてほしい」という、我々の意図を伝えられようになりました。週末や祝日には見学者の駐車場が埋まっていることもありますし、他県ナンバーの車両を見かける機会も増えました。
――アプライズ・キャドセンターのフォローアップはいかがでしたか?
山本さん: WEBサイトやアプリをリリースした後も、メディアへの露出をはじめ、プロモーションに力を入れていただきました。そうしたアフターフォローのスキームについても、企画の段階でしっかりパッケージングされていましたので、安心してお任せできました。我々は地元への落とし込みが得意なので、掛川市民向けのイベントを開催したり、講座を開いたり。アプライズ・キャドセンターとの役割分担もうまくできたのではないかと思います。
柴田さん: 大規模イベント「お城EXPO 2023(横浜)」や「にっぽん城まつり2024(名古屋)」にアプライズ・キャドセンターが出展されて、高天神城アプリと掛川三城を紹介していただいたのは本当にありがたく感じました。これについては業務委託の内容に含まれているわけではなく、完全にご厚意で。そこまで熱量を持って取り組んでいただけて、「アプライズ・キャドセンターと仕事ができてよかった」と素直に思いました。
どれか一つのお城がおいてけぼりにならないように
――今後の展望を教えてください。
柴田さん: 掛川三城それぞれの魅力を発信していきたいなと思っています。掛川城については、天守の復元が済み、二の丸御殿という城郭御殿が残っていますので、そういう「今、あるもの」を活かしていければいいなと考えています。横須賀城に関しては、これからハード面の整備を進めていき、そこにAR/VRコンテンツを絡めることもできればなお良いなと。それぞれのお城で力の入れ方を変えつつも、どれか一つのお城がおいてけぼりにならないように進めていきたいです。
山本さん: それぞれのお城に合った整備を進めていく中で、AR/VRコンテンツは今後も選択肢の一つとして活用していけたらと考えています。もちろん、今回の施策がスムーズに進み、有益なコンテンツを制作できたのは、アプライズ・キャドセンターの尽力があったからに他なりません。どのような形になるかはわかりませんが、今後も力を貸していただき、掛川市の魅力を広く発信していけたらと思います。
大河ドラマの影響も重なり、高天神城には遠方からの来場者も増えたといいます。そんななか、地元の方をはじめ、城好きな方、またそこまでお城に詳しくない方でも当時の高天神城を見て楽しむことができるVR/ARコンテンツを含めた高天神城アプリで、悠久の歴史を身近に感じることができる「今、よみがえる高天神城」プロジェクト。今後、高天神城のような日本各地に残るさまざまな歴史が、VR/ARによってその時代を体験できる、そんなコンテンツの広がりにも期待したいです。