物理的な体験装置とVRを組み合わせることで、本物のバンジージャンプに迫る体験ができる「どこでもバンジーVR」。バンジージャンプ好きが高じて脱サラをした株式会社ロジリシティ(以下、ロジリシティ)の野々村哲弥さんが企画運営をしており、これまで6万人以上に体験してもらった人気のコンテンツです。
この「どこでもバンジーVR」の開発に、キャドセンターが携わっています。野々村さんはどうしてキャドセンターとコンテンツの開発をすることになったのか、コンテンツ制作上のこだわりはどこにあるのか、今後の展望など、野々村さんとキャドセンターのプロデューサー 綱木俊博さんにうかがいました。
体験時にはインストラクターが付き、VR映像に合わせて装置を揺らすなどでリアリティを増してくれます
この状態までいき、VR映像でジャンプから跳ね返ったところで体験は終了
都市空間でVRバンジーを実現するために、キャドセンターに問い合わせた
――ロジリシティとして事業を始めた当初、本物のバンジージャンプとVRのバンジージャンプのサービス展開を並行して検討されていたそうですが、結果として「どこでもバンジーVR」に絞った理由をお聞かせください。
野々村さん: VRのバンジージャンプコンテンツは、実は当時すで存在していました。ただ、バンジージャンプ好きからすると、やはり迫力が及んでおらず「本物はこんなもんじゃない!」という気持ちがすごくあったのです。落下する映像に合わせて風が吹いたり、椅子が上下したりする程度で、飛び込む瞬間にフォーカスしたものも、それほどありませんでした。ですから、VRバンジージャンプを自分ならではのアプローチでバージョンアップさせたいと思い、体験装置作りを始めました。
――初めはどのように制作を進めていったのでしょうか?
野々村さん: 事業を始めるために会社を辞め、その直後にプログラム作りに着手しました。最初は自分でゲームエンジンのUnityなどを勉強しようとしましたが、触ってみると難しく、やはりプログラムを作れる仲間を探すようになったのです。ゲームエンジニアが集まるイベントで呼びかけたところ仲間が見つかり、すぐにプロトタイプのプログラムを作ってもらえました。物理的な装置作りを始めたのはその後です。そしてロジリシティを設立した2019年4月には、大きなプロトタイプの装置ができあがっていました。
――ご自身で制作を進める中で、どうやってキャドセンターと共同開発するようになったのでしょうか?
野々村さん: まず、現実ではできないような都市空間でのバンジージャンプを実現できる点が、VRの大きな魅力です。また、都市空間とリンクできれば、実際の建物でイベントを開催するなどして観光ビジネスにも展開していけます。そういったことから、都市空間でのVRバンジージャンプを実現するため、ロジリシティを設立してすぐ、都市のVRコンテンツを制作している企業を探しました。そこでキャドセンターさんのWebサイトを拝見し、精巧な都市の風景を3Dモデルデータ化されていると知り、お問い合わせしました。
綱木さん: 最初は、キャドセンターの都市モデルデータを使いたいというご相談をいただきました。しかし、野々村さんの取り組みにロマンや可能性を感じ、都市モデルデータの単なる提供ではなく、VRコンテンツの共同開発をこちらからご提案しました。こういった共同開発もぜひ新しく展開していきたいと考えていたタイミングだったため、こちらとしてもありがたい機会でした。
野々村さん: 会社を設立したばかりだったので、共同開発のお話は本当に「渡りに舟」でした。それから数週間ほどで一気にプロトタイプまで進みましたね。2019年10月には、池袋のサンシャインシティの噴水広場で体験会とメディア発表会を開催するところまで漕ぎつけています。
実際の速度や音と違う。それがVRで「リアル」を作り出す
――野々村さんが求めるバンジージャンプを実現するため、制作でこだわった部分を教えてください。
綱木さん: キャドセンターとしては、リアリティを担保するため、空間をすべてリアルサイズで作ることにこだわりました。たとえばVR空間内の東京都庁を測れば、実際の東京都庁と同じサイズになる計算です。落下するときの速度も、実際の速度に合わせるところから始めました。ただ、落下においてはリアルなバンジージャンプと同じ体感にならない部分もあることに気づきました。そこで、飛ぶ前の怖さや、飛んだ後に跳ね返るタイミングなどについて野々村さんにヒアリングして、よりリアルな体感に近くなる演出を加えていきました。加速度も少し上げていますし、ビジュアル的なところではエフェクトを加えたりもしています。そのほか、落下地点の周囲の風景を大量に撮影して手作業ですべて当てはめて、さらにリアリティを高める工夫もしていますね。東京都庁や東京タワー、あべのハルカスなどのランドマーク周辺は、全部手作りのようなものです。
野々村さん: 私のほうでは、まずどこから飛ぶかにこだわりました。VRですから、どこからでも飛べるわけです。そこで、将来的にイベントを開催できそうか、飛び込んでいくときの風景に見ごたえがあるかどうかを考慮しました。さらに、もし本物のバンジージャンプで飛べたらおもしろいところはどこだろうということも検討しました。また、コンテンツでこだわったのは、やはりリアリティです。本当に落ちるときに感じる怖さに近くなるよう、加速度を上げるようにしていただいたり、落ちた後の跳ね返り方やその回数をリクエストしたりしました。
――感覚的な要素が多いため調整が難しそうですが、こうしたやり取りはスムーズに進みましたか?
綱木さん: やり取りの場にプログラマーも同席していて、野々村さんから「こうしてほしい」というリクエストを受けると同時に、リアルタイムでプログラムを変えるようにしていました。加速度や跳ね返りなどの感覚的なところもすぐに反映できる体制でしたから、トライアンドエラーを何度も繰り返しながらも、リリースを早められたように思います。
――ビジュアルやサウンドなど、エフェクト面のこだわりを教えてください。
綱木さん: 最初は落下のスピード感を高めるために、鳥や風船なども入れてみたのですが、実際に落ちている瞬間のスピード感がうまく再現できませんでした。猛スピードで落下しているときは、周囲が見えるというよりは正面に集中していくような視界です。そこで、マンガのような集中線を入れることによって視覚の効果を高めています。もちろんサウンドもこだわりました。特に上空で吹く風の音と、落下中の風切り音はかなり演出しています。
野々村さん: そうですね。マイクで録音した強風のような、スカイダイビングに近い響きになっています。ただ、実際の耳で聞く音はそうではありません。スカイダイビングは風を全身で受けるから激しい響きなのですが、バンジージャンプは時間が止まったように、ふわっと落ちていくので割と静かなのです。つまり、本物のバンジージャンプの魅力を表現したいと思いつつも、まったく同じものをVRで表現しているわけではありません。VRならではの演出によって、本来のバンジージャンプらしい体感を再現しています。
――細部まで作り込まれていますね。
野々村さん: あとは、余計な文字情報を出さないことにもこだわりました。ものすごい高さから落ちていく恐怖の瞬間とせっかく向き合っているのに、文字で何かを説明されたら、没入感が阻害され、現実に引き戻されてしまいます。さらに、ジャンプ台に進むときなどに装置を物理的に揺らす演出にもこだわりました。思いつきで揺らしたら錯覚効果が思いのほか得られたので、本当に鉄骨の上を歩いているような揺らし方や、揺らすタイミングなどを追求しています。
綱木さん: 単なる映像だと、自分が揺れても映像は揺れませんが、VRなら自分が揺れるとヘッドマウントディスプレイ内の視界も揺れるわけです。この揺らす演出もVRならではのものなんです。
――さきほど「どこでもバンジーVR」を体験しましたが、本当にリアルで驚きました。特にジャンプ台の前に進む瞬間などは足元を揺らされることもあり、とても怖かったです。こういう演出ひとつとっても、本物に対する情熱を感じました。
野々村さん: ありがとうございます。キャドセンターと作り始めたときに、バンジージャンプの怖さについてキャドセンターからヒアリングがあり、そういう具体的な演出もご提案いただきました。やっぱり飛ぶ前の怖さというのが一番の見せどころなので、そこがいかに怖いかを伝えて、形になっていきました。
社会貢献や観光にも期待できるVRバンジージャンプ
――体験したユーザーからの反響はいかがですか?
野々村さん: 「思った以上に怖かった!」「なめてました」という声をたくさんいただきました。狙いどおりのリアクションが得られていますね。実際に、体験ユーザーが6万人を超えるほど盛況ですし、9割を超える人が高評価してくださっており、自信を深めています。ただ、スタンドアローン型のヘッドマウントディスプレイを使っているため、映像のクオリティには限界があり、「ゲームっぽい映像ですね」という声もあります。それでも、しっかりした立体空間の中で今までにない体験を味わえるという点で、十分に楽しんでいただけるものができたと実感しています。
――ビジネスやエンターテインメントのほか、観光や社会貢献などの方面でも活用が期待できそうですね。
野々村さん: そうですね。実際に、本物のバンジージャンプに興味があるけど、いきなり行くのは怖いから「どこでもバンジーVR」を体験しにきたという人もいます。「興味があるけれども怖くてまだ挑戦できてないことをやってみる」ということを、世の中に提案していきたいです。勇気が必要な事に挑戦してもらうことが、社会貢献につながればいいと思っています。
綱木さん: 観光での活用では、お城から飛ぶ「お城バンジー」というものも作りました。観光資源のためにVRを活用する流れが2016年頃からあり、ヘッドマウントディスプレイでお城などの往時の姿を再現するVRコンテンツを以前から作ってきたのですが、観光を活性化するレベルにまで持っていくには、やっぱりインパクトが大切です。そういう意味でバンジージャンプは向いていると考えて、「お城バンジー」を作って「お城EXPO」に出展しました。お城の上空数十メートルぐらいにジャンプ台があり、そこから天守に向かって飛ぶんです。お城の新たな楽しみ方として、また観光資源の活用という意味でも注目されています。SNSでの拡散もありインバウンドでの人気には驚かされるものがあります。
野々村さん: 本当におもしろいコンセプトですし、自治体などで導入していただき、観光地の活性化に貢献できたらと思います。
――最後に、キャドセンターとここまでの取り組みを振り返ってご感想を聞かせてください。
野々村さん: 率直に感謝しています。世の中にこれだけ認知していただき、多くの人に体験していただくところまでたどり着けたのは、キャドセンターのおかげです。今も自社で新しい体験装置を作っているのですが、VRの連動という部分でキャドセンターに協力していただいており、とても心強く感じています。ぜひこれからもよろしくお願いいたします。
綱木さん: 今回の取り組みは、「都市や建築のCGを作っている企業」というキャドセンターのイメージを、大きく変えるものになったと感じています。こちらこそありがとうございました。
(まとめ) キャドセンターとの共同開発によって、これまでにないリアルな体験を実現した「どこでもバンジーVR」。その高いポテンシャルとVRならではの魅力を活かしたさらなる活用にも期待がふくらみます。
「どこでもバンジーVR」は定期的に体験イベントを開催しています。気になった方はロジリシティのサイト(https://logilicity.com/news)や、キャドセンターのサイト(https://www.cadcenter.co.jp/topics/)でご確認ください。
まとめ/理感堂 冨増寛和